『あの日からのマンガ』


新聞、雑誌に連載された震災、原発事故ネタを集めた作品集で、出版は7月。
『コミック・ビーム』に掲載された4本の短編はいずれも秀逸で、時に笑わされ、時にゾッとさせられ、いつの間にかいろんなことを考えさせられます。
さらに「川下りふたごのオヤジ」(『小説宝石』掲載)のブラックユーモアにドキッとし、朝日新聞連載の「地球防衛軍のヒトビト」は少々読み飛ばしつつ(笑)、巻末に収められた「そらとみず」で提示された「救い」に安堵する。
・・・などと単純にレビューできるようなものではなく、すべての漫画には複雑な感情がギュウギュウに押し込まれていて、上辺だけのきれい事や偽善、おためごかしばかりがはびこる震災後の風潮の中で、漫画家としていったい何を表現すべきなのか、という自問自答を繰り返す作者の苦悩まで伝わってくるかのようでした。
全作品に通底しているのは、人間という存在が善と悪の双方を備えた存在であり、愚かな行動をとり続けてもなお、そこに「愛」を見出していこうとする視点。
批判やアイロニーを交えつつも、声高な主張や上から目線の誘導ではなく、絶対多数の人々の生活に降り立って現状を認識し、あるべき未来の姿を模索する、どこまでも真摯な態度で描かれた作品群です。
例え絶望しかなかったとしても、人間が生きている限り意味はあるのだということを、僕は改めて教えられた気がします。
傑作です。

エンターブレイン刊。